地元暮らしをちょっぴり楽しくするようなオリジナル情報なら、北区の地域情報サイト「まいぷれ」!
文字サイズ文字を小さくする文字を大きくする

北区の地域情報サイト「まいぷれ」

路傍の晶

第22回

ina雑貨店  店長 稲子さん

* 店長の稲子さん *
* 店長の稲子さん *
3人の息子を持つ。三男が高校に入学し寮に入ったのを機に、稲子さんは一念発起した。「いつまでも子どもに依存していては私ひとり、取り残されてしまう。自分で生き甲斐を見つけて生きていかないとダメ。それでお店を開こうと決心しました」

 大手百貨店に勤めていた頃から旅行に行くのが好きだった。結婚し子どもを産んでからも、専業主婦の傍ら時間を見つけては海外に足を運んでいた。だが長期間、家を留守にする訳にはいかないため、必然的に距離の近いアジア諸国に目を向けるようになる。ベトナムを中心とするアジアン雑貨に惹かれたのは、こうした趣味の旅行に拠るところが大きい。

 しかし、いざ店を開くといっても、経営の知識は一切ない。末息子が中学に通う3年間こそ介護職に就いていたとはいえ、それまでの20余年は母親としての仕事に追われていた。
* 大泉学園にあるお店 *
* 大泉学園にあるお店 *

好きな雑貨を扱う店を立ち上げるために、稲子さんはまずスーパーや大手量販店に勤めた。レジ周りや商品の流れなど、小売業の仕組みを自身に叩き込むためである。またパートと平行して、雑貨店を開くための講習にも通った。入学の条件としてコンピューターの知識が不可欠だったため、それまでは触ったこともなかったパソコンを購入し、教室にも入った。

「本当に世間のこと、なにも知らなかったんですよね」思わず苦笑いを浮かべる。
「でも私の我儘で始めたこと。誰にも迷惑をかけずにやるためには、すべて自分でやっていくしかないから」

 ずっと思い描いていた夢だった。子どもを育てながら、胸の奥にはつねに、「いつかは自分の店を持ちたい」という気持ちがあった。半年間に渡る講習では、商品の仕入れや渉外の仕方、マーケティングのノウハウなど、初めて知る経営の手法に苦労もしたが、彼女の意志が折れることはなかった。
* 手作りの品が並ぶ店内 *
* 手作りの品が並ぶ店内 *
さまざまな新しい経験を重ね、昨年11月、雑貨店「ina」はオープンした。ベトナムの雑貨をはじめ、バリ、そしてイタリアの商品まで取り揃える。
「すべて自分で買い付けてきたものばかりです。大泉学園という土地柄もあり、生活のなかで使える実用的な品揃えを意識していますが、なによりもひとの温かさの伝わるような優しい手作りの商品にこだわっています。お子さんもお年寄りも、世代に関係なく楽しんでもらえるお店にしていきたいですね」

 オープンして半年、一時期は落ち込んだ客足も、暖かくなるにつれ増えてきた。通りすがりの人々が軒をくぐり、いまではリピーターも多い。最近では金券もつくり、商品を購入した客に配るサービスも始めた。「おかげさまで、当初の予想よりもいい感じです。子どもたちのためにも一生懸命生きなきゃね」努力の成果に、稲子さんは頬を緩めた。

 初めて店を切り盛りする母親の姿を見て、息子たちは、「お母さんが生き生きと頑張っていることがなにより」だという。息子の後押しを受けながら、細腕を揮う母の挑戦は続く。

取材・文◎隈元大吾
http://www.scn-net.ne.jp/~jps/

人気のキーワード